カトマンズ点描

タクシーの車窓から

タクシーの車窓より

 砂ぼこりの舞うネパールの首都カトマンズの市内。タクシーの後部座席に乗ると、運転手はスピードを上げ、多くの車のなかに紛れ込むように走らせていく。

 窓から外を眺めると、ほこりにまみれて走る車、灰色の建物、道を歩く人々、市場と思われる場所に集まる人々、走っている犬、そして、多くはないが牛も道路を歩いている。

 車は基本的には日本と同じ左側通行だが、それ以外の交通ルールはあるのだろうか。

 まず、信号がない。最初は青信号で走っているのだと思っていたら、そうではなく、中心地なのに信号そのものがない。大きな交差点には交通整理の警官らしき人がいるが、とくに何かをやっている様子もない。

 車、バイク、自転車、人がその交差点をぶつからずに行き交っている。しかもそれなりのスピードを出しながら。

 交差点でなぜぶつからないのか不思議なほどで、信号なんてないほうが、それぞれが用心して運転するので、事故は減るのではないかと思ってしまう。

 そして、前方に少しでも空きがあれば、その狭い隙間に横並びに突っ込んでいく。片側何車線なのだろうか。前を走る車が遅ければ、反対車線にはみ出し追い抜いていく。

 いや、ひょっとして車線という概念はないのかもしれない。中央線なんてあっただろうか。なんとなく左側通行を守っていれば、なにも問題はないのかもしれない。

 道は未舗装のところが多く、車は道路の穴や水たまりを左右によけ、しかしたまに跳ねながら、そして後方に砂ぼこりを舞い上げながら走る。前を走る車と対向車の砂ぼこりで視界がぼんやりとする。

 タクシーの運転手はさすがに慣れた運転で、障害物をよけながらどんどん走るが、乗っているこっちは慣れていない。

 主要な道路が混んでいるようで、裏道に入ったようだ。壁に囲まれたギリギリの幅の道を、なかなかのスピードで飛ばしながら、対向車をやり過ごす。

 そして、道のまんなかで何かをやっている人や、飛び出してくる人を器用によける。自分の感覚では、もう何人もぶつかっている。

 目的地に着き、代金を渡し「ダンニャバード(ありがとう)」と言うと、それまで硬い表情をしていた運転手は、ふっとやわらかい笑顔を返してくれた。