尾瀬は霧の中

霧と花の湿原を目指して

 梅雨の真っただ中、湿原に咲く花を目的に、尾瀬に行くことにしました。1日だけだと行ける場所も限られてしまうこともあり、せっかくなので山小屋を予約しました。初めての尾瀬、そして初めての山小屋泊です。

2015年6月下旬

はるかな尾瀬

 夜、準備を整え、関越自動車道を北へ。サービスエリア、道の駅で仮眠をとり、朝一番のバスに乗れるように駐車場のある戸倉へ向かいます。山小屋指定の駐車場に車を止め、そこからはバスに乗り鳩待峠へと向かいます。今回もAさんとの山行です。

アヤメ平へ

 鳩待峠へ着くと、ほとんどの人は尾瀬ヶ原を目指し、下りの道を進んで行きますが、私たちはアヤメ平を目指し、上へと登っていきます。昔は人気のコースだったそうです。

 30分もしないうちに雨が降り出し、レインコートの上下を着て木道を歩いていきます。木が雨に濡れて滑りやすいですが、足元を見ながら歩いていると、アカハライモリがお出迎えをしてくれました。

 そのまま木道を歩いていくと、いかにもという湿原の光景に出くわしました。ここは横田代という場所で、標高は1,860m。池ではカエルが鳴き、少し涼しいためか、雨が降っているにもかかわらずとても爽やかです。心を覆っている黒いきたないものがはがれ落ちていく感じがします。それほど清々しい光景でした。

 木道に沿うようにしてイワカガミが点在し、他にも小さな花々が咲いています。

 遠くを見ると、湿原の中にはピンクや白の小さな花々が散りばめられています。

 種類はとても多いというわけではありませんが、いろいろな花が咲いています。

アカハライモリのお出迎え
横田代
イワカガミ(横田代)
小さな花々(横田代)
ヒメシャクナゲ(横田代)

幻想的なアヤメ平

 さらに先に進んでいくと、アヤメ平に到着しました。あたりは真っ白、とても幻想的な風景です。

 池の中に浮かぶ浮島は動いているのかそうではないのか、何も考えずただ見つめていました。

 まわりの景色が見えないのが少し残念でしたが、逆に言うと、このガスに包まれた幻想的な風景は、晴れていると見ることができないので、この光景をいつまでも忘れないよう、時間を忘れ立ちすくんでいました。

 アヤメ平の湿原はかつて多くの観光客に踏み荒らされ荒廃してしまったようで、今は湿原の回復作業が行われています。むしろのようなものを敷いているところもありました。

 霧の濃くなってきたアヤメ平をあとに来た道を引き返し、滑る木道に気を付けながら、出発地点の鳩待峠へ向かいました。

幻想的なアヤメ平
アヤメ平にて
アヤメ平
アヤメ平

 次は尾瀬ヶ原湿原の入口、山ノ鼻を目指します。

尾瀬ヶ原湿原へ向けて

山ノ鼻へ

 鳩待峠から石段を下り、さらに木道を歩いて下っていきます。雨は降っていないものの、木道は濡れて滑りやすく、けっこう用心しながら歩いていました。

 左手に至仏山を眺めたり、下の方に川を見たりしながら、木々の緑の中を歩きます。

至仏山
ギンリョウソウ

 だいぶ下ったところに、緑の深い、ツキノワグマ注意の場所があり、備え付けの鐘を鳴らして進みます。カーンという甲高い音が響き渡ります。

バイケイソウ?
山ノ鼻への道
山ノ鼻への道

研究見本園

 尾瀬ヶ原湿原の入口である山ノ鼻に到着。ここには山小屋などいくつか建物があり、休憩にもってこいです。今晩はここからすぐ近くにある小屋(尾瀬ロッジ)に泊まります。

 チェックインを済ませ、まだ時間も早いので、研究見本園を回ることにしました。ここでも木道の上を歩いていきますが、アヤメ平とは違った花々が咲き、それぞれにカメラのレンズを向けているときりがありません。尾瀬の歌に出てくるミズバショウやワタスゲの花も咲いています。花々の奥にはまだ雪の残っている至仏山が構えています。

 木道をぐるっとひと回りし山ノ鼻に帰ってくる手前には巨大なミズバショウがあってびっくりしました。

オオバタチツボスミレ?
ミツガシワ?
雪の残る至仏山
ミズバショウ
ワタスゲ
チングルマ

山小屋

 小屋ではチェックインを済ませ、部屋へと案内されましたが、想像していた山小屋とはまったく違って、部屋はきれいな個室、トイレは水洗でしかもウォシュレット、お風呂に入り汗を流すと(石鹸などは使えません)、旅館に泊まっているのかと思うくらい快適でした。尾瀬は他の小屋もこんな感じなのでしょうか。消灯時間を過ぎ、雨音を耳に眠りにつきました。

泊まった山小屋(尾瀬ロッジ)

 明日は尾瀬ヶ原湿原を歩きます。

尾瀬ヶ原湿原

雨の朝

 翌朝目が覚め、朝食をとり、出掛ける準備をしていてもまだ雨が降っていて、しばらく待っていましたが、いつまで待っても仕方ないとレインコートを着て歩き始めます。夜中に比べてだいぶ小雨にはなりました。

 小屋の前からすぐに尾瀬ヶ原湿原の入口になっていて、ここから湿原の中心へと、ずっと平らな木道を歩いていきます。

湿原と木道

 山に囲まれた広い湿原の中に作られた道。東へ向かって燧ヶ岳へと伸びる道。今日も霧に包まれ、ときおり強い風に吹かれながら歩いていくと、湿原の中にできた水たまりのような池(池塘)の水面は、風が吹くたびに波立てられ、浮島が揺れています。あたりにはまだ人も少なく、レインコートに吹き付ける風と雨粒の音以外にはなにも聞こえない、静寂な空気に包まれています。

尾瀬ヶ原湿原
燧ヶ岳に向かって伸びる木道

池塘と浮島

 湿原のなかに点在する池にはヒツジグサの葉が浮かび、足元の池を覗き込むと、底の浅い水の中ではアカハライモリが尾を揺らし、モウセンゴケの花も見られます。池のひとつには小さな花々で飾られた浮島が浮かんでいるものもあり、絵のような風景だと、いつまでも飽きず眺めていました。

 いつの間にか雨もほとんどやみ、薄明かりが差すようになってきました。湿原の一部分が太陽の光に照らされ、緑が輝いているようで、何とも言えない光景です。そして虹も架かっていました。

 湿原の入り口から牛首分岐を過ぎ、ほぼ一本の道を4kmほど歩いてきました。先はまだ続きますが、帰りの時間も考え、今回は山小屋のある竜宮十字路で引き返すことにしました。このあたりから南側にある山を登っていくと、昨日行ったアヤメ平に行くこともできるそうです。

浮島に咲く花々
尾瀬ヶ原湿原

鳩待峠へ

 木道をひたすら歩き湿原の入口の山ノ鼻へと戻り、そこから鳩待峠へ向かい昨日歩いた山道の木道を登っていきます。鳩待峠へはずっと登りで、早く行こうと思ってもそれはなかなか無理がありますが、ただ登山でよくあるように下りで膝が痛くなってしまうということはなさそうなので、その点はいいかもしれません。

 鳩待峠でちょうど来ていたバスに乗り戸倉の駐車場へと向かいました。駐車場に着くと青空が見え、すっかり夏の陽気になっていました。

はるかな尾瀬

 はじめての尾瀬はずっと霧に包まれていたものの、清々しい雰囲気に包まれた場所でした。遠いものだと思っていた尾瀬は、行ってみると想像よりも近く、ミズバショウの春、ニッコウキスゲの夏、草紅葉の秋、雪化粧の冬、シーズンを通して訪れてみたい場所です。