雪の国への鉄道旅行(余話)

“ほたるまんじゅう”の話

 群馬県と新潟県の県境にそびえる谷川岳連峰。岩登りのメッカとして有名な一ノ倉沢を抱えるこの山々は、標高は2,000m級とそれほど高くはないものの、その位置する気象条件などから、3,000m級の山々に匹敵するものとして知られる。昔から数多くの遭難者が出ており、魔の山ともいわれることがあり、殉難の碑も建てられている。

 今回の旅の帰路も、この谷川岳の真下に掘られた清水トンネルを通るわけだが、暗いトンネルの中を揺られ、ごおという電車の音を耳にしているうち、旅の疲れを感じているつもりはなかったが、うつらうつらと夢うつつになっていた。

 上り方面の清水トンネルは10分も経たないうちに外へ出るのだが、その短い時間のうちに、急に脳裏に“ほたるまんじゅう”という言葉が浮かんできた。清水トンネルを抜けると、電車は土合駅、湯檜曽(ゆびそ)駅、水上駅と停車し、水上駅で高崎行きの電車に乗り換える。

 自宅に戻り、“ほたるまんじゅう”とは一体何なのだろうと検索してみると、ホタルで有名な辰野(長野県)では、お土産として売っているようだが、ここのまんじゅうはアンパンのような外観で、頭に浮かんだものとは少し違っていた。

 谷川や水上と関係のある“ほたるまんじゅう”もあるのだろうかとさらに調べてみると、水上駅の一つ先、湯檜曽駅の近くに“ほたるまんじゅう”を売っているところがあるようだ。こちらのまんじゅうは想像していたものに近い外観の写真が載っていた。

 今回の旅のどこかで“ほたるまんじゅう”の文字を目にした記憶はなく、またそんな饅頭があるのか、存在すら意識したことのない“ほたるまんじゅう”。

 清水トンネルの中で体験した、この白昼夢のようなものは何だったのだろうか。